自分が亡くなったときに、『面倒を診てくれた長女に財産を残したい』『まったく音信不通の長男には遺産は譲りたくない』といった想いを持っている方も少なからず居られることでしょう。
この記事では、「財産を相続させたくない相続人」がいた場合、どのようにすれば良いのかを紹介します。
この記事を読んで欲しい人
財産を相続させたくない相続人がいるときのことを知りたい方
相続人の廃除
相続人の廃除とは、被相続人が『その者に相続させたくない』と感じさせるような非行があった場合、被相続の意思に基づいて、家庭裁判所の審判または調停によって、その者の相続権を奪うことができる制度をいいます。
相続人の廃除事由は民法で規定されていますので、なんでも廃除できるわけではありません。
① 相続人が被相続人に対して虐待や重大な侮辱をしたこと
民法892条
② 相続人にその他著しい非行があること
では、どのような場合に相続人の廃除要件が認めらるのでしょうか?
実は、『これをやったらダメ』とか『これは大丈夫』といった明確な基準は設けられておりません。
相続人の廃除としての重大な侮辱(東京高裁平成4年12月11日決定)
『被相続人に対するどのような行為が”虐待”や”重大な侮辱”にあたるか』といったことについて、東京高裁平成12月11日決定要旨を紹介します。
民法892条にいう虐待または重大な侮辱は、被相続人に対し精神的苦痛をを与え、または名誉を毀損する行為であって、それにより被相続人よ該当相続人との家族的共同生活関係が破壊され、その修復を著しく困難ならしめるのをも含むと解すべきである。
どのような虐待、侮辱や非行が廃除原因にあたるか、それが相続的共同関係や家族的な共同関係を壊す程度のものかどうかといったことが要点になるようですが、環境やそれぞれの家庭によって主観的な捉え方が変わってくるので、明確な基準がないと言えそうです。
相続人の廃除手続き
相続人の廃除は、被相続人が生前に家庭裁判所に請求するか、遺言で排除の意思表示をすることでできます。
遺言で廃除の意思表示を行った場合、遺言の効力が発生した後(被相続人が亡くなった後)、遺言執行者が推定相続人の廃除を家庭裁判所に請求しなければなりません。
相続欠格との違い
相続欠格とは、『被相続人との身分関係によれば、相続権を当然に持つ者であっても、相続人として認めることが適切でない所定の欠格事由があるものは、法律上、当然に相続権がないものとすること』をいいます。
相続人の廃除は、被相続人が生前に家庭裁判所に請求するか、遺言で意思表示をする必要があります。
一方、相続欠格は、法律上当然に効果を生じるため、家庭裁判所に審判手続きを行う必要はありません。
遺産分割協議を行うにあたっては、相続欠格者は当然に相続人ではありませんので、相続欠格者を除外して遺産分割協議が行うことができます。
ただし、相続不動産の登記名義を変更するときには、相続欠格者であることの証明書を提出しないと法務局が、登記を受け付けてくれません。
遺言書の作成では不十分
遺言者は、遺言によって相続分を指定することができます(民法902条1項)
遺言によって指定された相続分は、法定相続分に優先します。
では、遺言書を作成すれば、「相続させたくない相続人」に相続させなくすることができるかというと、そうではありません。
なぜならば、相続人には遺留分という権利があるからです。
遺留分について詳しくは過去記事で解説しています。
法定相続人には”遺留分”という権利が民法で認められています。
複数の相続人がある場合に、一方の相続人にのみ遺産を相続させたくなくても、遺言書で行うことはできません。
ただし、遺留分を侵害するような遺言書(例えば、上記のように長女に全財産を相続させる)であったとしても、作成すること自体には何ら問題はありませんし、遺言書自体も有効なものとなります。
まとめ
この記事では、『遺産を譲りたくない相続人』がいた場合のことについて解説してきましが、いかがでしたでしょうか。
相続欠格の要件は民法で明確に規定されていますが、相続人の廃除要件は明確には規定されていないのが現実かと思われます。
間違ってはいけないのが、相続人には”遺留分”という権利があるため、『遺言書をかいておけば大丈夫』と勘違いしてしまうことです。
被相続人に対して素行が悪い相続人に多くの遺産を残したくない場合、相続対策を早期から行う必要があります。